私はこれまで、短時間正社員制度や週2正社員といった多様な働き方の選択肢を提案し、啓発活動を行ってきました。その中で、政府や総理が進める短時間制度に対して、いくつかの懸念を抱いています。
現在の短時間制度の議論は、女性や非正規雇用に焦点が偏っているように見受けられます。また、非正規雇用を正規雇用化する手段として短時間正社員を当てはめることが主眼になっているようです。一見、これが働き方改革の答えだとされる雰囲気がありますが、果たしてそれが本当に「一番いい選択肢」なのでしょうか。
さらに気がかりなのは、非正規雇用やパート、アルバイトを短時間正社員へ移行させるための補助金や助成金制度の導入が進む中で、それを目当てにする「補助金目的の不適切な活用者」たちの暗躍です。助成金を目的とした形ばかりの雇用改善が進むと、本来の目的である働きやすい環境の実現が後回しになり、労働者にとっての実質的なメリットが薄れる可能性があります。また、それにつられて、労働者の希望も聞かずに補助金目当てで短時間正社員化を目指す企業も増えそうで、この点も大きな懸念材料です。また、政府として具体的にどのようなサポートを行っていくのかも注目していきたいところです。
私たちが目指しているのは、単一の働き方を押し付けることではありません。働く人々がそれぞれのキャリアやライフステージに合わせて、フルタイム正社員、短時間正社員、業務委託、契約社員、非正規、アルバイト、パートといった多様な選択肢から自由に選べる社会をつくることです。それぞれの形態には特性があり、すべてが同じ価値を持つわけではありません。しかし、個人が自身の状況に応じて選べる幅が広がれば、それだけで労働環境は大きく変わります。
短時間正社員制度もその選択肢の一つとして重要であり、これが適切に活用されることで働き方の多様性を実現できると信じています。この制度は無期雇用であり、正社員と同様の権利を持ち、時間に比例した賃金が支払われるほか、賞与や退職金制度も他の正社員と同様に適用されます。このことで企業の負担が増える可能性はあるものの、人口減少や人材不足といった課題に対応するための重要な投資と捉えるべきです。また、短時間正社員に対し、責任だけを押し付けられるのではないかという懸念についても、しっかりと解消していく必要があります。企業と労働者が相互に信頼し合い、より良い労働環境を構築することが制度成功の鍵となるでしょう。ただし、それを「一番の正解」とするのではなく、多くの選択肢の中で適材適所に活用されるべきだと考えます。
私たちが取り組むべき課題は、短時間正社員制度の拡充だけではありません。それ以上に、働く人々が安心してキャリアを築ける環境を整え、選択肢を増やし、それぞれの働き方を尊重する文化を醸成することです。
政府の施策に期待を寄せると同時に、私たちも現場の声を吸い上げ、より良い制度を提案し続けていきたいと思います。皆さんが自分らしい働き方を選び、それを通じて生き生きと活躍できる社会を目指して、これからも活動を続けていきます。